takeshi goto
architect & associates


野毛山動物園




野毛山動物園が好きだ。小学校の遠足からはじまって、何度足を運んだか知れない。高校時代にも一人で、あるいは二人でよく行ったし、大学に入って東京に移ってからも横浜にくるときにはふらっと立ち寄ることがあった。子供ができて横浜に戻ってきてからまた頻繁に通うようになった。

土地の起伏や池の配置が、かつてこの場所が池泉回遊式庭園だったことを示している。茂木惣兵衛の別宅として池泉回遊式庭園が設えられていたのだ。関東大震災後この一帯が野毛山公園として整備され、昭和24年に開かれた貿易博覧会でクマ、キツネ、タヌキなどの動物をここに展示したのがきっかけで動物園になっていくことになった。

回遊式庭園のなかに動物たちの居場所がつくられているのは、奇妙な感覚だ。植栽が変化しているから庭園のイメージはそれほど感じられないとはいえ、いわゆる日本的な空間のなかに世界各地から集められた動物がひしめきあっているのだから。もっともかつての回遊式庭園自体も南蛮渡来の新規な植物などを積極的に採用していたから、けっして両者は相容れないというものでもないのかもしれない。

順路を巡る回遊式庭園と動物園の動線は意外と相性がよい。野毛山動物園は、街中のそれほど広くない敷地に、高密度で動物が展示されている。それにもかかわらずそれぞれの動物の世界が独立しているように感じられるのは、土地の高低差と植栽の配置をうまく使って、独立した領域をたくさんつくりだせているからだろう。

動物の密度が高いから、おのずと檻で囲い込むことになるわけで、近年できたズーラシアのような生息環境展示の方法は望むべくもない。でもそれも決して悪くない、と思う。動物との近さがあるからだ。生息環境展示は自然に近いかたちで動物を生息させるから、人間とのあいだを距離で解決しようとする。僕はずっと動物をただ眺めているのが好きなので、近さはとても重要だ。

園内にはかつて柳宗理によるサインなどがあって、それもよかった。今では入口付近にある吊り橋が柳宗理のデザインとして残っている。螺旋状のスロープがあって、子供たちがこの吊り橋を渡ったりしていると、なぜかそれが動物園の延長線上のような気がして、ロンドン動物園のペンギンプールよろしく、つい子供たちの動きをじっと眺めてしまう。

2009/06/27
(初出:area045 "建築家のコラム" 第165回)